共謀罪に抗して/メール/メーリングリストのリスク回避
目次
メーリングリストのリスクとは
メーリングリストはグループによるメール機能の利用として最も広範囲に用いられているものだろう。メーリングリストもメールである以上、基本的にメールがもつプライバシー上のリスクを共有する。すなわち
- 平文での送受信であるために、第三者がメールの内容を読む危険性が常にある。この危険性は、受信側のメールサーバ上でも配送経路上でも生じうる。
- インターネットの管理システムの必要から、メールサーバの管理者はメールのコンテンツにアクセスできる。
- 捜査機関など法執行機関は、日本の法律では、一定の法的な手続があれば、メールの送受信者に知られないままメールのメタデータや本文を取得することが可能である。
メーリングリストは、こうしたリスクを共有するが、同時に、メーリングリストならではのリスクも存在する。いわばグループ全体のプライバシーの権利を侵害されるリスクである。日本国憲法では、
21条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
とあり、メーリングリストのような集団によるコミュニケーションは憲法が保障する権利として保護されるべきものである。しかし、他方で、共謀罪は、こうした権利をないがしろにして、「話し合い」を共謀として犯罪化するために、その捜査や彼らからみた「犯罪」(わたしたちからみた権利)を立証するという口実のもと、メーリングリスト上のやりとりなどを網羅的に取得しようとする危険性が高まっている。
メーリングリストサービスの問題点
たとえば、最もよく利用されている無料のメーリングリストのひとつfreemlの「利用者会員規約」では次のように書かれている。
14条5項
法令に基づき裁判所その他の司法機関および行政機関から会員に関する情報の開示を要求された場合、弊社は弊社が有する会員情報の全部または一部を、当該司法機関および行政機関に対して開示できるものとします。ただし、会員情報のうち通信の秘密に該当する情報については、第15条の規定に基づくものとします。
第15条(通信の秘密)3項
刑事訴訟法第218条の定めに基づく強制処分(令状による差押え、捜査など)が行われた場合、その他相当の理由がある場合には、弊社は当該処分の定める範囲で第1項の守秘義務を負わないものとします。
この規約14条では、会員情報のなかの何が通信の秘密に該当する情報なのか具体的に示されておらず、しかも行政などからの開示要求の条件も明示がない。また15条では強制処分だけではなく「その他相当の理由」であっても守秘義務を免責されるとあり、どのようにでも解釈可能な内容であって、利用者のプライバシーの権利を十分に保障する内容にはなっていない。また、捜査機関などへの個人情報の提供の有無を当事者である利用者に通知する義務を負うようには記載されていないために、事前にも事後においても、利用者は捜査機関などによる捜査を被った事実を知らないままとなることが予想される。
令状主義が形骸化し、裁判所は捜査機関の請求があれば簡単に令状を発付する悪弊が常態化していること、多くの電気通信事業者には警察・捜査機関からの天下りもあり人事交流が盛んであること、ユーザのプライバシーや人権を配慮することが企業の社会的責任であるという共通理解が希薄であることなどを考慮すると、安価あるいは無料のサービスを利用するユーザの権利を保護しようとする強い動機付けを企業側に見出すことは困難といわざるをえない。
なによりも、捜査機関などによる情報収集が、大量監視のテクノロジーを背景に、私たちに知られないまま進行するリスクとどのように立ち向かうかを具体的に検討することが必要だ。ユーザサイドでのプライバシー防衛をより積極的に検討しない限り、共謀罪下の権利侵害がますます野放しになりかねない。
メーリングリストに対する監視、情報収集をどのように回避するか。
とるべき対策は下記のようになる。
- メーリングリストの管理を海外の信頼できるメーリングリストサービスのサイトに移動させる。
- 参加者は、メーリングリストの投稿、受信を全て暗号化されたメールサービスを提供するサイトを通じて行ない、自分のパソコンや契約しているプロバイダーのメールボックスに一切メーリングリストのメッセージを残さないようにする。
上記のような対応をおこなうための具体的な例を以下説明する。
メーリングリスト参加者は全員、暗号化メールサービスを利用する。たとえば、ProtonMail(共謀罪に抗して/メール/Protonmail )やTutanotaなど、サービスを提供している側でもメッセージの内容を読むことができないものを使う。しかもProtonMailはスイス、Tutanotaはドイツでサービスを提供しており、いずれも日本よりプライバシーに関する法制度は充実している。
しかし、ProtonMailもTutanotaもメーリングリストを暗号化されたシステムで提供していない。そのために、メーリングリストのサービスはたとえば、riseupで行う。riseupは、米国、シアトルに拠点を置くアクテイビストがボランティアベースで運用しているサイトだ。ここでは下記からメーリングリストサービスの申し込みのための手続を開始する。 https://riseup.net/en/lists
申し込みから承認までたぶん数日から一週間程度の時間がかかる。この申し込みは英語になるが、実際のメーリングリストの管理は日本語でできる。
このように、メーリングリストの投稿、受信、管理をすべて国外に移し、暗号化を出来る限り利用することで、従来のメーリングリストの運用よりもグループの言論表現の自由と通信の秘密の権利は保護できると思う。
更に、各参加者ができることとして、次のことがある。
インターネットへのアクセスには、Torブラウザを利用する。
VPNのサービスを利用する。
自分のパソコンのハードウェアなどの重要なファイルを暗号化する。
下記のサイトを参照してください。 https://antisurveillance.researchlab.jp/
riseupでのメーリングリスト作成について
以下は、riseupのサイトから、メーリングリスト作成についてのQ&Aとメーリングリスト設置条件についての文書の仮訳である。
どのようにしてメーリングリストを作成するか
最初に、メーリングリストのカウントを作成しなければならない。そして、メーリングリストを作成する前にlists.riseup.netにログインしなければならない。ログイン後に、ページのトップにある「create list」のリンクをクリックする。riseup.netの電子メールアカウントは完全にriseup.netとは切り離されていることを覚えておくことが大切である。あなたが、lists.riseup.netのログインした場合、どこのメールルバイダーのものであれ、emailのフルアドレス(@マークの右側も含めて全て)記入する。メーリングリストを作成するのにriseup.netのメールアカウントは必要ない。
誰がメーリングリストを作成できるのか。
誰でも作成できる。唯一の条件は、このメーリングリストはラディカルは社会変革のために利用されること、というものだ。もしあなたのリストが進歩的、ラディカルあるいは革命的な性質をもたないとすれば、我々はリストを作成しない。主に、趣味、一般的な教育、スポーツ、スピリチュアルな実践のメーリングリストは承認しない。もう一度言う、メーリングリストは政治的なものであること。
あなたがメーリングリストを作成したら、その管理に責任をもってほしい。もしあなたのリストがオープンしたら、あなたはただちにスパム(企業によるものであれもろもろの活動家からのものであれ)を阻止するように管理することが必要である。ここにメーリングリスト使用の同意書https://we.riseup.net/riseuphelp/usage-agreementがある。
なぜまだメーリングリストが使用できないのか?
あなたはメーリングリストの設定をすることができるが、メーリングリストが承認されるまで実際にリストのアドレスは使えない。あなたのメーリングリストが承認された場合、あなた宛にメール送られるはずだ。もしあなたのメーリングリストをホストすること我々が却下する場合にもその旨のメールを受けとることになる。メーリングリストの承認に一週間ほどの時間がかかるだろう。
以上:出典 https://riseup.net/en/lists/list-admin/configuration/creating-lists
riseupのメーリングリスト使用同意書
メーリングリストは以下の同意書とポリシーに従う。
もしあなたがriseup.netのメーリングリストを作成する場合、以下の条件に同意したものとする
- 事前承諾: あなたが、自分のメーリングリストに登録するすべてのemailアドレスについて、登録の事前承諾をもらうこと。オンラインであれ集会であれ、口頭であれ、組織のメンバーはすべて事前承認とみなす。もし、疑問のある場合は、メーリングリストに登録すべきではない!もしわれわれがあなたのメーリングリストについて苦情を受けた場合、運用を一時停止するか廃止する。我々はこの原則を極めて厳格に行使する。というのもいかなるメーリングリストの乱用もメーリングリストサーバ全体がブロックされるという結果を招きかねないからだ。
- 政治的なフォーカス。我々は主に、解放的な社会変革を目的としたメーリングリストだけをホストする。このメーリングリストは進歩的でラディカルなアクティビズムのために用いられなければならない。
- 管理者の責任:このメーリングリスのオーナーであるあなたは、メーリングリストからの退会、司会、宛先不明の登録者の削除、未使用のメーリングリストの閉鎖、あなたのメーリングリストへの苦情処理を行なう責任を担う。
- カンパ:このサービスは完全に相互扶助で成り立っている。できるところでカンパをしてほしい。あなたに何ができるかはここを参照してほしい。
- 我々がホスしないリスト:以下は我々がホストしないリストの例示である。
- 趣味:鉄道模型、ブッククラブ、宗教のディウカッションなど。
- 大学の単位取得のクラス:できれば大学のメーリングルシツを使って欲しい。
- 商用利用:いかなるものであれ営利目的はダメである。
- 個人利用:「私の楽しみ」「自分の人生に関するアップデート」など。
- 資本家(金持ち):リベラルな資本家(金持ち)や(米国)民主党など。
- 前衛政党:ISO、RCP、WSP、CP、その他教条主義的なマルクス主義、レーニン主義、毛沢東主義、トロツキストの党派的な政党
- 文化:イベントお知らせなど(政治性がない場合)
メーリングリスト登録の条件
あなたがriseup.netのどのメーリングリストの登録する場合であれ、以下の条件に同意しなければならない。
- tofuを送ってはならない。tofuとはアクティビストによるスパムを意味する。これは企業のスパム同様非常に悩ましいものである。世界のだれもが皆あなたが計画しているデモやキャンペーンや抗議やらんちき騒ぎを知らなければならないというわけではない。tofuは完全に話題の焦点から外れているかおせっかいでしかない政治的なメールを大量に多くの人々の送ることをいう。
- もし誰かから、あなたがメーリングリストでトーフなメールを送っているというクレームをつけたときは、あなたのriseupのすべてのメーリングリストへの投稿をブロックする。
メーリングリストの停止
あなたのメーリングリストは下記の理由で削除されることがある。
- 非政治的であることが判明した場合。
- メーリングリストがスパムを送る人々による場合。スパムは大量に無関係なメールを送りつけるものだ。スパムは悪であり、我々はスパムについては一切の寛容さも持ち合わせない。もしあなたのメーリングリストに不本意にも登録されたという苦情があった場合、このメーリングリストを削除しあなたのサーバへのアクセスを停止する。
- 過去12ヶ月投稿がなかった場合。
メーリングリストの乱用の報告
もし誰かが、riseup.netを利用してスパムを送っている場合、我々のabuse@riseup.netあてに直ちに知らせてほしい。
我々はスパムについては不寛容政策をとるが、しばしば正当なメーリングリストの管理者が間違いをして登録すべきでない人たちを登録してしまうことがある。我々はたいてい事の成行に任せることにしている。もし同じような誤ちが繰り返されるようであれば、メーリングリストを削除することになる。
著作権侵害
Riseup Networksはデジタルミレニアム著作権法の警告に従い、削除手続をとる。あなたのRiseup Networksのサービス利用はRiseupのDMCAポリシーに従うものとする。